「日本軍のインテリジェンス なぜ情報が活かされないのか」小谷賢
2007/07/11公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(93点)
要約と感想レビュー
これは、本ではなく、論文です。史実を調査し、日本の諜報のあるべき姿を提言しています。
著者は、日本における諜報組織の弱さを過去にさかのぼって明らかにし、現在の日本が取るべき対策を提示しています。この本の内容こそが、日本が諸外国に知られてはならない最大の秘密ではないかと赤面しました。
日本の欠点は、情報部の地位が低いこと。さらに、情報を戦略的に考え、政策に反映する組織、仕組みとなっていないことです。日本では、実務者レベルが政策を作成し、各部署を調整して決定するというプロセスですが、その中で情報に基づく客観的な判断は埋もれていくのです。
・陸軍内の政策決定過程だけでも、まず課長級が中心となって部内の意見を取りまとめ、そこから参謀本部作戦部長、陸軍省軍務局長、陸軍省次官、参謀本部次長、陸軍大臣、参謀本部総長の決裁を経て陸軍の試案が生み出される。・・・その結果・・・情報に基づいた合理的な案ではなく、各組織の「合意」を形成できるような玉虫色の案と・・(p182)
また、情報部門の予算の少なさ、人員の少なさも問題です。これは、昔も今もあまり変わりはないようです。
【昔】
・優秀なエージェントを雇うための条件の一つは十分な報酬であったが、各特務機関はそこまでの潤沢な資金を手にしていなかった。例えば、憲兵隊に逮捕されたソ連側スパイは、当時最高級のライカのカメラと現金5000円(現在約400万円)を持っていたというが、日本側では一人のスパイにそこまで金をかけることができなかった(p52)
【今】
・現在日本のインテリジェンス・コミュニティー全体で使われる予算は推定で1000億円以内と考えられる。アメリカの・・・予算が年間3兆円強、イギリスが3000億円程度と言われるのに比べると、いかに細々と行われているかがわかるであろう。(p206)
著者の提案は、情報と分析を行う独立組織の設立です。実行部隊とは別に、情報組織をつくることで、客観的な情報収集・分析ができるようになるわけです。
・行動しようとする人間が情報を扱い出すと、手段と目的が入り混じるために客観的な情勢判断が難しくなってしまう現象である。これに対する処方箋として・・・「実行するスタッフと調査するスタッフをできる限り厳密に分離しておくしかない(p195)
本として評価するのは難しい本でした。国家のあるべき姿を考えたい方にお薦めします。日本の情報組織のあるべき姿を提言するものとして、★5つとしました。
この本で私が共感した名言
・情報部の地位の低さというのも日本特有のものである・・・英米、特にイギリスでは・・・優秀な人材がインテリジェンスに集まる・・・戦前の日本では・・・作戦部に優秀な人材が集められた(p207)
・ハルは米側の通信情報(マジック)によって、日本との交渉決裂が戦争を意味することをすでに知っていたため、妥協的な暫定協定案を用意していた。・・・中国にとっては日米間の妥協成立は好ましくなかった・・・ロンドンの中国大使館はUPに(暫定協定案の)情報を漏らしてしまった・・・ハルは一夜の内に考えを変え、26日には強硬なハル・ノートを日本側に提示することになった。(p186)
・1941年9月、陸軍省軍務課の戦争経済研究班も、対米戦の見通しについて、日本の生産能力は限界に近く・・・米英の生産力は上昇を続ける・・・持久戦には堪えがたい、という主旨の報告を行っている。杉山元参謀総長は報告の調査は完璧で議論の余地はないが、研究班の結論は国策に反するとして報告書の焼却を命じた(p192)
・奇襲攻撃が成功した後に海軍が頼りにしたのは、アメリカの世論が厭戦気分に支配されることと、ドイツの欧州制覇であった。・・・まったく逆であった・・・米世論に対するプロパガンダ工作も、ドイツ軍に対する客観的な研究の実施も不十分なままであった。(p167)
【私の評価】★★★★★(93点)
著者経歴
小谷 賢(こたに けん)・・・1973年生まれ。大学卒業後、ロンドン大学キングス・カレッジ大学院修士課程修了。京都大学大学院博士課程修了。防衛省防衛研究所戦史部教官。専門はイギリス政治外交史、インテリジェンス研究。
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