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「国家〈上〉」プラトン

2018/06/02公開 更新
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国家〈上〉 (岩波文庫)


【私の評価】★★★☆☆(70点)


要約と感想レビュー

 スパルタ人が裸で戦っている時代に、国家とはどうあるべきか、あるべき国家はどのようなものかソクラテスが議論しているものです。当時は、悪い人が偉くなるというような状況だったためか、正義とはなにか、悪とはなにか、という議論から入っていきます。


 まず、当時の価値観としては、支配階級とは権力のある強い者のことであり、強い者の利益になることこそが、<正しいこと>であると分析しています。これは、現代の帝国主義的な考え方なのでしょう。当時は現代の国際社会と同じように、法による支配よりも、力を持っている国家が得をする世界だったのです。


 これに対しソクラテスは、本来の国家の目標は一つの階層だけが幸福になることえはなく、国家の全体ができるだけ幸福になることだと定義しています。したがって、見かけは正義で、腹黒い人が強いのですが、そうした国家は一部の人だけが利益を得て、国家全体の利益にならないことになります。


・不正な人間でありながら正義の評判を確保してしまえば、至福の生活が得られるということだ。それならば、賢者たちが教えてくれるように、"みかけ(思われること)は真実にも打ち勝つ"以上、そしてこの<みかけ>こそは幸福の決め手となるものである以上、そのほうへと全力を振り向けなければならない(p121)


 当然、ソクラテスの強い者が正義ではなく、国家全体の利益になることが正しいという意見に対し、反論があります。仮に正しい人間と不正な人間とが互いに契約して、共同で何かの事業をするとしたら正しい人のほうが、きまって損をするのです。正しい人間が、それでも正しいのかということです。


 それに対してソクラテスは、国家全体の利益を考える政治家が、国家のトップとなるのが理想の国家としています。だから才能のあるものを農民にするよりも、国家の守護神として抜擢したほうがよいとしています。では、どうすればそうした国家を作ることができるのか、そこまでは「上」では議論されていませんでした。もう少し「国家」を読んでみます。


 ソクラテスさん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・不正がひとたび充分な仕方で実現するときは、それは正義よりも強力で、自由で、権勢をもつものなのだ・・<正しいこと>とは、強い者の利益になることほかならず・・(p上67)


・相手の二つの国のうちの一方に使節を送って、事実ありのままのことを語るとしたらどうだろう『われわれには金や銀は不用だし、その所有を許されてもいないが、君たちは許されている。それで、われわれと同盟して戦って、もう一歩の国の人たちの財貨を手に入れてはどうか』(p268)


・国家において支配の任にある人たちに対して、君は、訴訟を裁く役目を課するのではないかね?・・その場合、彼らが裁きを行うにあたって目指すことは、ほかでもない、各人が他人のものに手を出さず、また自分のものを奪われることもないように、ということではないだろうか?(p300)


・もし<正義>とは何かをほんとうに知りたいのなら、質問するほうにばかりまわって、人が答えたことをひっくり返しては得意になるというようなことは、やめるがいい。答えるよりも問うほうがやさしいことは、百も承知のくせに!(p44)


・最初クレタ人が、ついでスパルタ人が裸で体育をはじめたときは、当時のみやびやかな連中はすべてそうしたことを物笑いの種とすることができた・・・人々が実際にやってみるうちに、着物を脱いで裸になるほうが、すべてそうしたことを包みかくすよりもよいとわかってからは、見た目のおかしさということもまた、理が最善と告げるものの前に消えうせてしまったのだ(p347)


国家〈上〉 (岩波文庫)
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プラトン
岩波書店
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【私の評価】★★★☆☆(70点)


目次

I「前奏曲」〈正義〉についてのいくつかの見解の検討(第1巻)
 導入部(1章 327A ~328B)
 1 ケパロスとの老年についての対話―〈正義〉とは何かという問題へ(2章-5章328B~331D)
 2 ポレマルコスとの対話―〈正義〉とはそれそれの相手に本来ふさわしいものを返し与えることであるという,詩人シモニデスの見解の検討(六章~九章 331E~336A)
 3 トラシュマコスとの対話(10章~24章336B~354C)
 (1)〈正義〉とは強者(支配階級)の利益になることであるという,トラシュマコスの見解の検討
 (2)〈不正〉は〈正義〉よりも有利(得になること)であるか.
II〈正義〉の定義――国家と個人における―(第2巻-第4巻)
 1 グラウコンとアディマントスによる問題の根本的な再提起(第2巻1章~9章 357A~367E)
 2 〈国家〉に関する考察―「最も必要なものだけの国家」と「贅沢国家」.国の守護者の持つべき自然的素質(第二巻十章-十六章 367E~376E)
 3 国の守護者の教育.(第2巻17章-第3巻18章 376E~412B)
 (1) 音楽・文芸.
 (a)何を語るべきか―文学(詩)における話の内容についての規範
 (b)いかに語るべきか―単純な叙述(報告形式)と〈真似〉による叙述(劇形式).
 (c)歌,曲調,リズム
 (d)音楽・文芸による教育の目的
 (2) 体育(および医術)のあり方
 4 国の守護者についての諸条件(第3巻19章-第4巻5章 412B~427C)
 (1)守護者の選抜.建国の神話.
 (2)守護者の生活条件,私有財産の禁止.
 (3)守護者の任務
 5 国家の〈知恵〉〈勇気〉〈節制〉そして〈正義〉の定義(第4巻6章-10章427D~434C)
 6 魂の機能の三区分.(第四巻十一章~十五章 434C ~441C)
 7 個人の〈知恵〉〈勇気〉〈節制〉そして〈正義〉の定義.国家と個人の悪徳の問題へ(第4巻16章-19章)
III 理想国家のあり方と条件,とくに哲学の役割について(第五巻-第七巻)
 A 三つのパラドクス(「大浪」)
 導入部.(第5章1章-2章449A~451C)
 1 第一の「大浪」―男女両性における同一の職務と同一の教育(第5巻3章-6章451C~457B)
 2 第二の「大浪」―妻女と子どもの共有.戦争に関すること(第5巻7章-16章457B~471C)
 3 第3の「大浪」―哲学者が国家を統治すべき事(第5巻17章-18章471C~474C)
 B〈哲学者〉の定義と〈哲学〉のための弁明
 1〈哲学者〉とは?―イデア論にもとづくその規定(第5巻19章~22章474C~480A)


著者経歴

 プラトン(Platon、前427ころ~前347)・・・古代ギリシャの哲学者。 ソクラテスの弟子。 アテナイ郊外に学園(アカデメイア)を創設。 現象界とイデア界、感性と理性、霊魂と肉体とを区別する二元論的認識論において、超越的なイデアを真実在と説き、ヨーロッパ哲学に大きな影響を残した。


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