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「東芝解体 電機メーカーが消える日」大西 康之

2017/09/27公開 更新
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東芝解体 電機メーカーが消える日 (講談社現代新書)


【私の評価】★★★★☆(80点)


要約と感想レビュー

電力・電電の自由化で電機メーカーが凋落する

東芝は海外の原子力事業で巨額の損失を出し、パソコン事業等の粉飾決算が明らかになっています。他にも、NEC、パナソニック、ソニー、日立、富士通も元気がありません。日本の電機メーカーはどうしてこうなってしまったのでしょうか。著者の仮説は、日本の電機メーカーには国内に安定した収入が十分に確保されていたからというものです。実際、東芝の2016年の連結売上5兆6千億円の半分以上を「電力」「電電」に関わる事業で稼いでいるのです。


「電力」の発電設備は電力会社の特注品なので、信頼性は高いが値段も高い、「電電」の通信機器はNTTの特注品なので、信頼性は高いが値段も高いのです。「電力」「電電」が自由化されれば、価格競争となり、いずれは割高な国内企業から外資企業への乗り換えが進む可能性もあるのです。


アップルやサムスンは自らリスクを取ってスマホを開発し、巨費を投じて世界規模の販売網とブランド力を構築したが、日本勢はドコモの指示を待ち、自らリスクを取らなかった(p32)

東芝パソコン事業の粉飾決算

つまり、過去の日本の電機メーカーは、総括原価制度で守られた電力会社や、NTTから安定した収益を得ていた。ところが、通信と電力の自由化により、その安定収入が失われることでその強みが弱みに変わったというのです。


特に東芝の場合には、原子力に集中投資した直後に東京電力の福島第一原発事故が発生。本来、東芝は、防衛装備部門で地対空ミサイルを開発・製造しながら、発電部門で原子炉を開発・製造しているので、東芝は核ミサイルを作れる会社なのです。国策として原子力を辞めるわけにもいかないというジレンマの中で、パソコン事業の粉飾決算で時間を確保しようとしたということなのでしょうか。


電気料金、電話料金という名の「税金」を元手に電力会社とNTTが支配する社会主義的な構造である。一個の独立した産業に見えている日本の電機産業は、その下部構造でしかなかった(p260)

選択と集中が必要

著者は「勝てない事業から撤退し、勝てる分野にヒト・モノ・カネを集中」させている三菱電機を評価しています。三菱電機以外の電機大手はどこも、選択と集中ができていないというのです。安定収入があることは、強みでもあり、弱みでもあるのでしょう。


確かに一理あると思いました。私は、日立も選択と集中を行っていると思いますが、東芝は厳しいままです。原子力が強みだった東京電力と同じように、原子力が強みだった東芝も凋落するのでしょうか。大西さん良い本をありがとうございました。



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この本で私が共感した名言

・日立=ホンハイの提携を「液晶技術の海外流出」と捉えた経産省は、提携阻止に動き出す・・ホンハイと組もうとしていた日立を引き戻し、東芝、ソニーと組ませた。こうした生まれたのが前述のJDIである(p129)


・1970年代の終わり、シャープは韓国のサムスン電子に半導体技術を供与している・・このときサムスンに技術指導をしたシャープの元副社長、佐々木正は今もサムスンから「恩人」の扱いを受けているが、サムスンに苦杯をなめされられた日本の半導体メーカーや経産省は、佐々木を「国賊」と呼ぶ(p138)


東芝解体 電機メーカーが消える日 (講談社現代新書)
東芝解体 電機メーカーが消える日 (講談社現代新書)
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大西 康之
講談社
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【私の評価】★★★★☆(80点)


目次

序章 日本の電機が負け続ける「本当の理由」
1 東芝 「電力ファミリーの正妻」は解体へ
2 NEC 「電電ファミリーの長兄」も墜落寸前
3 シャープ 台湾・ホンハイ傘下で再浮上
4 ソニー 平井改革の正念場
5 パナソニック 立ちすくむ巨人
6 日立製作所 エリート野武士集団の死角
7 三菱電機 実は構造改革の優等生?
8 富士通 コンピューターの優も今は昔



著者経歴

大西康之(おおにし やすゆき)・・・ジャーナリスト。1965年生まれ。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。産業部記者、欧州総局(ロンドン駐在)、編集委員、「日経ビジネス」編集委員などを経て、2016年に独立。企業や業界の深層を、人物を中心に描き出す手腕に定評がある。『稲盛和夫 最後の闘い』(日本経済新聞出版社)『ファーストペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(同)など著書多数。『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(日経BP社)は第13回新潮ドキュメント賞最終候補となった。


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