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「電力システム改革の検証: 開かれた議論と国民の選択のために」山内 弘隆, 澤 昭裕

2015/07/18公開 更新
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電力システム改革の検証: 開かれた議論と国民の選択のために


【私の評価】★★★☆☆(70点)


要約と感想レビュー

 来年から、電力の全面自由化、小売全面自由化が行われます。これで、原子力事故を起こした東京電力から電力を買いたくない!という人は他の事業者から買うことができるのです。


 ただ、問題となるのは、これまでベストミックスという方針のもと、多様な燃料で発電していたものが、経済性だけで選択されることになることでしょう。


・再生可能エネルギーの大量導入によって電力市場の卸価格が低下し、原価償却の終わったような老朽化した石炭火力設備の優位性が高くなったこと、米国のシェールガス革命の影響によって米国産の安価な石炭がEUに流入したことによって・・(CO2)排出増加となる(p126)


 さらに、原子力が再稼働し、再生可能エネルギーがどんどん導入されれば、系統の周波数を安定化させている火力電源の稼働率が低下し、電源が赤字になる可能性もあります。


 つまり、系統の安定性を維持するためには、市場原理だけでは十分ではなく火力電源を維持するための仕組みが必要なのです。


・再生可能エネルギーは優先接続・優先給電によって保護されているため、その導入量が増えれば、自由化によって競争市場に置かれた従来電源の稼働率は低下する・・これらを保有するインセンティブが働かなくなるのだ(p131)


 こうしたことは、欧米での事例で数年前からわかっていたことです。それがわかりながら、再生可能エネルギー(特に太陽光)をこれだけ導入してしまうとは、残念なことです。


 さらに電力自由化すれば、ベストミックスを捨て、原子力を捨てるか、国営化するしか道は限られるのです。もう電力業界の未来は、見えています。政策決定した人は、責任を取っていただきたいと思います。


 良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・欧州でも、自国資源が豊富で需要の伸びが小さい英国による「国営公社を解体し、主として外国資本に売却する」という極端な手法と、自国の資源がないフランスによる「国営公社EdFを堅持し、原子力を強力に推進する」(p7)


・緊密な協力は、垂直統合体制の下では、部門間の社内調整の形で行われてきた。法的分離を行うと、これらの社内調整は、発電会社と送配電会社との間の、対価を伴った契約あるいはルールに置き換わる(p30)


・バランシング・グループは、積分レベルの粗い需給調整だけを行う。・・周波数を安定させるのが、システム・オペレーターの役目となる(p35)


・卸電力取引所で取引される電気も、1時間あるいは30分等、一定の時間における積分値で所定の電力量を供給するもの・・1時間1コマの境目の直前が供給不足、直後が供給超過となるため、周波数の大幅な低下と常勝がコマの境目付近で定期的に繰り返されることになる(p39)


・2011年3月の東日本大震災では、東北電力が、1000年に一度と言われる大震災、大津波に襲われ、広範囲にわたる設備の損傷があった中で、1カ月で停電を解消している。対して、米国では、毎年襲ってくるハリケーンからの復旧に、1カ月以上かかることも珍しくない(p45)


・英国の経験から、自由化導入後の小売料金は値上げに反転するだけでなく、上昇傾向が長期的に続く事態もありうること・・さらに、利益率が高いという単純な理由だけで、設備投資が実行されるわけではない(p77)


・先進諸国では政策主導での再生可能エネルギー発電の導入拡大が進んでおり、特に負荷追従能力の高い火力発電の投資確保が共通課題になっている(p99)


・FITによる再生可能エネルギー賦課金は・・・標準世帯あたり約18ユーロ/月(約2520円)もの負担となっている(p126)


・政策の変更(規制緩和など)によって、それまでに実施した設備投資投下資金の回収が困難になることがあり、その回収不能の資金をストランデッドコストという(p161)


・原子力発電の持続性確保の条件・・・発生確率が小さくても、巨大事故のリスクに対する手当が十分でなければ、既設・新設含めて原子力プラントに市場からファイナンスがつくことは難しい(p164)


電力システム改革の検証: 開かれた議論と国民の選択のために

白桃書房
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【私の評価】★★★☆☆(70点)



目次

第1章 電力システム改革をめぐる議論
第2章 発送電法的分離とは何か
第3章 小売全面自由化とは何か
第4章 供給力確保と容量市場
第5章 ドイツのエネルギー政策の理想と現実―自由化・再エネ・脱原発
第6章 電力新技術とその仕組み
第7章 原子力発電とシステム改革


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