「思い通りの死に方」中村 仁一、久坂部 羊
2014/01/03公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(92点)
要約と感想レビュー
二人に医師による大放談会です。お二人が言いたいことは、働き盛りの医者は、がん検診も人間ドッグも受けていないということ。
医師自身も、検診の有用性に疑問を持っているのです。
・そもそも、医者はがん検診を受けない人が多い・・・約3分の2が10年間に一度も受けていません・・・(がんではないのにがんと判定されること)の問題もある・・医者自身はがん検診や人間ドッグをあまり信用していない(p98)
そもそも、60歳近くにもなって、がん検診でがんが発見されたら・・・。「がんと闘いましょう!」などと医者に言われて、地獄の抗がん剤治療が待っている。
がんで死ぬのか、抗がん剤で死ぬのか、わからないような状態になって、最後はホスピスで最後を迎える可能性があるのです。
・男も60歳を過ぎたらもういいでしょう。・・・がん検診や人間ドッグなんか、その年齢になったらもうやったらイカンですよ。がんを早期発見してしまったら、自覚症状もないのに苦しい治療を受けるハメになりますから(p84)
先生方が言いたいことは、年を取ると死ぬ可能性が高くなるということ。そして、治る可能性のない病気も(特にがん)実際にはあるということ。
ところが、病院に行くと、治る可能性がなくても治療薬や対処療法(胃瘻や点滴)があって、それで苦しんでいる人がたくさんいるということです。
・「高齢の親が食事をとれなくなったらどうしますか?」とアンケート調査すれば、ほとんどの人が「点滴する」・・「胃瘻をする」などと答える・・・でも、年寄りが食べられなくなったということは、もう個体として死に向っていることを意味しているんですよ。それを無理やり引き留めても、ただただ不自然で残酷な状態になるだけでしょう(p57)
最後は、日本の健康診断です。毎年健康診断をしているのは日本くらいのもの。多額の費用をかけてメタボや検診などを推進してきたのは、世界に先駆けこの政策の有効性を検証するためでしょう。
日本でのすばらしい健康診断という実験の成果があるのならば、それを世界に発表していただきたいものです。
中村さん、久坂部さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・今の厚生労働省も、今さら「効果がない」とは言えないのでしょう・・・すでに人間ドッグや検診を生業とする人が大勢いるので、彼らを失業させるわけにもいきません・・・(p102)
・基準値が、昔よりもどんどん引き下げられています。私が大学で勉強したころは、160以上が高血圧でした。それが今は140とか125まで下がっている・・・日本に高血圧症患者が3000万人も4000万人もいるなんて、おかしいですよ。・・・病気の捏造ですよね。勝手に病気にしておいて「薬で治してあげます」(p17)
・ただの老化に病名をつけたりするんですよ。たとえば骨粗鬆症なんて、年を取ったら当たり前の現象なのに、老化とは言わない。それで「いい薬ができた。これで骨が丈夫になる」などと言うんですが、あれは言葉のアヤなんですね(p14)
・テレビではそんなサプリメントのCMをよく見ますけど、あんあもの飲んだって体は若返りませんからね。・・・ところが健康圧力が強いから、グルコサミンだのヒアルロン酸だのコラーゲンだのが、めちゃくちゃによく売れるんです。・・私、そういうテレビCMを見るたびに、手がプルプル震えるくらい腹が立ちます(p21)
・口から食べられなくなった患者の胃にチューブを入れて栄養を与える「胃瘻(いろう)」・・・自分もやってほしいと考える医者は少ないでしょう・・・結局、患者になったことのない医者には、その治療の苦しみがわからない(p47)
・「死ぬのはがんに限る」・・・実は高齢者の場合、無駄な治療さえしなければ痛みもなく、穏やかに死ねる。・・・それを無理に治療しようとして患者を苦しめるから、「がんは悲惨だ」という印象を世間に植えつけるんです(p80)
・少なくとも手遅れの状態で発見された末期がんは、そのとき痛みがなければ、最後まで痛みは出ません。悲惨な最期を迎えるように見えるのは、がんではなく、がん治療が患者を苦しめているからです(p87)
・医療の適応を考えるときに大事なのは、まず第一に「回復の見込みがあるかどうか」ということ。もうひとつは、「QOLが改善するかどうか」(p154)
・古希を迎えた記念に棺桶を手に入れました・・・実際に入ってみると、人生観が変わりますよ。・・・もちろん、まだ生きていますから、棺桶から出てきても良くはなくなりませんよ。しかし執着心が薄れると、考え方は間違いなく変わってきます(p164)
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【私の評価】★★★★★(92点)
目次
第1章 長生きは、怖い
第2章 医者は信用できるのか
第3章 自然死は、怖くない
第4章 なぜ「死ぬのはがんに限る」のか
第5章 医者もがんになるのはなぜか
第6章 患者に「嘘の希望」を与えるな
第7章 尊厳死の理想と現実
第8章 思い通りの死に方
著者経歴
中村 仁一(なかむら じんいち)・・・1940年長野県生まれ。社会福祉法人老人ホーム「同和園」附属診療所所長、医師。京都大学医学部卒業。財団法人高雄病院院長、理事長を経て、2000年2月より現職。96年から市民グループ「自分の死を考える集い」を主宰
久坂部 羊(くさかべ よう)・・・1955年、大阪府生まれ。作家・医師。大阪大学医学部卒業。2003年、小説『廃用身』でデビュー
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