人生を変えるほど感動する本を紹介するサイトです
本ナビ > 書評一覧 >

「福島原発で何が起こったか-政府事故調技術解説」淵上 正朗、笠原 直人、畑村 洋太郎

2013/03/24公開 更新
本のソムリエ
本のソムリエ メルマガ登録[PR]

福島原発で何が起こったか-政府事故調技術解説- (B&Tブックス)


【私の評価】★★★☆☆(72点)


要約と感想レビュー

政府の事故調査・検証委員会メンバーが、その膨大な報告内容を一般の人にも読める形にまとめた一冊です。これ一冊では十分ではないと思いますが、事故の流れはわかるでしょう。現地の東京電力の社員は、できることはやったのだと思います。


・(3月13日)14時31分頃(数多くの危険な兆候)この頃、(3号機原子炉建屋)二重扉北側で300mSv/hという高い線量が計測され・・・15時28分には、3号機中央制御室でも12mSv/hという高い線量となった。運転員は、中央制御室の同じ部屋の中でも線量の低い4号機側に避難した。(p88)


福島第一原子力発電所では、1階面で海水が70cmも浸水し、配電盤が壊滅したのが致命的でした。電源が確保できなければ、できることは限られます。現地の運転員に自動車のバッテリーを集めて、直流電源の替わりとして使おうと考える時点で、勝負は決まっていたということです。


・今回の事故で致命的だったことは、「配電盤などの配電系が、浸水というたった一つの原因で事実上全滅」したこと・・・配電盤は、複数の配置やプラント間の融通などにより「多重性」は確保されていたが、多くが地下1階に集中的に配置されていたため・・・「単一原因で全滅」(p124)


この本の特徴として、失敗学からの考察があります。海外では911をきっかけにテロを含む重大事故対策が進むなかで、日本では"視野狭窄"が起きていたという。例えば、柏崎刈羽の地震被害が発生すれば、地震対策に集中してしまう。シュラウドのひび割れ隠しが発覚すれば、小さい物事にも対応するようになったというのです。


さらに2006年に原子力安全委員会がシビアアクシデントを含む国際安全基準に沿って国内の指針類の見直しを考えていたとき、原子力安全・保安院との昼食会で原子力安全・保安院長から原子力安全委員長に「寝た子を起こすな」との要請があったというのです。つまり、日本では官僚の保身のために、どんどん形式的な管理、規制を行うようになっていったというのです。


・アメリカではテロなどを考えた広い意味でのアクシデントマネジメントがきちんと行われるようになったのに対し、日本では地震に対してのみ注意が集中し、しかも形式的な管理・規制を行う方向に走っていった(p147)


東京電力の社員は、社会的にも経済的にもたいへんなことになっていると思います。では、原子力を電力業界と協力して推進し、「寝た子を起こすな」と発言した経済産業省原子力安全・保安院および内閣府原子力安全委員会の人たちは今何をしているのでしょうか。


消えた年金と同じように、すべてはうやむやになるのでしょう。畑村さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・1~4号機の配電盤については、M/Cのすべてと、多くのP/Cが水没して機能を失っていた。そのため仮に、外部電源が無事に発電所の開閉所(入口)まで送電できていたとしても、全交流電源喪失という状況は、事故当初にはあまり変わらなかったと考えられる(p43)


・フェールセーフで(ICの)バルブが閉めるように設計されている理由は、異常時には「放射能を絶対に漏らさない」よう、「まずはバルブを閉めるべき」という思想による。一方、炉心冷却を優先すべき重大事故時には、「バルブは開いてなければならない」という相反する要求がある。「小さな事故も許さないのか」、それとも「重大事故防止のために小さな被害は許容するのか」という根本的な選択の問題がある。(p53)


・アメリカ・アラバマ州ブラウンズフェリー原子力発電所(Mark1)。計器を8時間読み取れるよう移動式の直流電源(バッテリー)が準備されている。・・・非常用D/Gは、厳重な水密扉の部屋の中に設置(p129)


・アメリカ・コネチカット州ミルストン原子力発電所(Mark1)。福島第一原発1号機のIC弁は、格納容器の中にあるものについては手動で開けられない。しかし、ここでは電源喪失時に手動で開ける訓練が行われている(p130)


・アメリカ・カルフォルニア州にあるディアブロ・キャニオン原子力発電所(PWR,加圧水型原子炉)。海沿いにある海水ポンプは水密化された建屋に収納され、電気モーターを空冷するための吸気口は、シュノーケルで高さ13.5mにまでかさ上げされている(p130)


福島原発で何が起こったか-政府事故調技術解説- (B&Tブックス)
淵上 正朗 笠原 直人 畑村 洋太郎
日刊工業新聞社
売り上げランキング: 14,677


【私の評価】★★★☆☆(72点)


目次

はじめに 
第1章 概要と予備知識
第2章 事故の経過(政府事故調報告のわかりやすい説明)
第3章 事故はなぜ防げなかったのか
第4章 失敗学からの考察
第5章 事故をより深く理解するための基礎知識
あとがき 



著者経歴

淵上正朗・・・東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会元技術顧問。(株)小松製作所顧問。東京大学非常勤講師、工学博士。1949年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。小松製作所取締役専務執行役員を経て現職。専門は建設機械、鋳造機械、産業用ロボット


笠原直人・・・東京大学教授、工学博士。1960年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。日本原子力研究開発機構を経て現職。専門は構造解析、高温強度、高速増殖炉


畑村洋太郎(はたむら ようたろう)・・・東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会元委員長。消費者安全調査委員会委員長。工学院大学教授、東京大学名誉教授、工学博士。1941年生まれ。東京大学大学院修士課程修了。東京大学教授を経て現職。専門は創造学、失敗学・危険学、医学支援工学


楽天ポイントを集めている方はこちら



読んでいただきありがとうございました!

この記事が参考になった方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓ 
人気ブログランキングに投票する
人気ブログランキングへblogrankings.png


メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」
50,000名が読んでいる定番書評メルマガです。購読して読書好きになった人が続出中。
>>バックナンバー
もちろん登録は無料!!
        配信には『まぐまぐ』を使用しております。
<< 前の記事 | 次の記事 >>

この記事が気に入ったらいいね!

この記事が気に入ったらシェアをお願いします

この著者の本 , ,


コメントする


同じカテゴリーの書籍: