「再建屋の元祖―新説・二宮尊徳」邱永漢
2013/03/11公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(93点)
要約と感想レビュー
■二宮尊徳のイメージは、
薪を背負いながら本を読み、
夜も菜種油で本を読む勤勉家。
しかし、
邱さんから見た二宮尊徳は、
勤勉な人間というよりは、
金にうるさい庶民金融家です。
借金のある人を集めて、
仲間内で金を出資させ、
低利で貸し付けたのです。
現代でいうマイクロクレジットと
いわれるものと同じ仕組みでしょう。
・金次郎のうまさは、金の取立てが上手だというだけではなくて、貸した金の回収ができるように相手の経理内容にまでやかましく立ち入ることであった。(p365)
■尊徳は基本的に農民ですので、
低利の資金調達と合わせて、
農業生産の向上を目指します。
そのためには、
農民のやる気を出させるために
優秀者を表彰する。
村を歩きまわり、
倹約と勤勉を説いて廻る。
領主に荒田の年貢免除を了解させ、
年貢のない荒田の開発を推進したのです。
・彼はまず三カ村の土地調査から開始した・・・なによりも生産の絶対数量をふやすのが第一である・・着任の年は、まず例の無利息金融や農具の貸与からはじめたが、翌年からは荒田の開発に着手した。(p301)
■尊徳の藩政改革は、
1 藩の支出抑制
2 藩の借金整理(債権放棄)
3 年貢の免除による荒田開発
4 農民への無利息金融と農具貸与
5 農民への指導や表彰による意欲高揚
から構成されていました。
これらは、全面的な領主の協力がなければ、
完遂することはできません。
なぜなら、役人はまったく協力しようとしませんし、
たとえ財政がよくなってきたとしても、
役人はすぐに増税しようとするからです。
・貧乏な者が自分の貧乏を克服する意欲を起こすように仕向けることがいちばんでございます・・・仮に一反の荒田を開いて、一石の米がとれたといたします。そのうち五斗を食料にあて、残りの五斗を翌年の開田料とし,年々、これを繰り返していけば、何億万の荒田でも開いていくことができましょう(p288)
■いつの世も、
役人の世界は仕事が遅いのと、
財政赤字になるのは避けられないようです。
現代に二宮尊徳がいたのなら
消費税増税はしないのではないかと思いました。
邱さん、
良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・貧乏すると、人間は人並のつきあいさえさせてもらえなくなる。たとえ、命を粉にしても、貧乏だけはするまい。貧乏だけは・・」貧乏からの脱出 それが金次郎の人生のはじまりであった(p204)
・資本家の搾取によって大衆はますます貧乏のどん底に突き落とされると考える代わりに、金次郎は、人間は自分の体を動かしさえすれば、太陽は恵みを与え、大地は養分を与え、りっぱに作物にして人間に返してくれるものだと、信じたのである(p225)
・財源をふやそうと思えば、個人を富ませる以外に方法はない。個人を富ませるためには、個人の労働意欲を高揚するよりほかはないし、そのためには汗水を垂らして作り出したものが自らの収入になるという道を講じておかなければならない。今日のことばでいえば、増税をやめるか、あるいは逆に減税を断行して、財源は自然増収にまつというやり方である(p337)
・彼は網目の外で働いたかせぎによって、つぎつぎと田畑を買っていったが、課税の対象になるこれらの田畑はすべて小作に出して、自分は小作料をもらうだけにとどめた。そして、小田原藩の家老の邸へ下男奉公に出かけたが、給金のような労働収入はこれまた課税の対象にならなかったので、これでも税金を免れた。この意味で、金次郎は今日のことばで言えば、合法的脱税の名人ということができる(p398)
・世の中には年貢という制度がある。いちばんけっこうな身分は年貢で暮らしている階級で、いちばんバカをみているのは、「年貢の納めどき」ということばもあるように、年貢を納めさせられている階級である(p241)
・千二百石取りといえば、表向き、一年に千二百俵の実収入があることになっている。しかし、江戸時代も中期から末期になると、禄高はもはや単なる名目にすぎなくなって、実際は減俸につぐ減俸を強いられ、服部家でもせいぜい四百俵、つまり三分の一の実質収入しかなかったのである(p236)
・使用人を減らすとか、衣服の新調をひかえるとか、支出を締めてかかればよさそうなものだが、それは格式上やれるものではないという。なんのことはない、サムライは百姓を苦しめているけれども、サムライ自身も 金に振りまわされ、金に首を絞められながら、生きているのである(p253)
・同じナスを作るにも、ただ植えておくのと、肥料をやるのとでは、収穫がだいぶ違います。学問というのは人間の肥料のようなもので、学問のない人間はできのよくないナスと同じようなものです(p222)
▼引用は下記の書籍からです。
日本経済新聞社出版局
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