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「外交敗戦―130億ドルは砂に消えた」手嶋 龍一

2007/03/06公開 更新
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外交敗戦―130億ドルは砂に消えた (新潮文庫)


【私の評価】★★★☆☆(75点)


要約と感想レビュー

 1990年8月、イラク軍がクウェート侵攻を開始しました。それは、石油を中東に依存する国々にとって、中東の石油資源をイラクに握られるという許しがたい暴挙でした。この本は、1991年の湾岸戦争において、アメリカが、そして日本がどう動いたかを記録したドキュメントとなっています。


 「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」国にとって、クウェートが侵略されるというケースは想定外であり、自衛隊を派兵することなど、法的にも政治的にも不可能でした。日本の外交には、選択肢があまりにもなかったのです。


・アメリカ国民・・・「クウェートの王族のために、なぜわれわれの息子が砂漠で戦い、血を流さなければならないのか」・・・アメリカの政府と議会は、中東の石油に最も依存する日本に同じ憤懣を投げ返した。「日本は、原油輸入の実に七割を中東に頼っており・・・なぜ、他の経済大国のために血を 流さなければならないのか・・」(p20)


 また、それに拍車をかけるように、外務省、運輸省、大蔵省など関係省庁間の情報共有もうまくいかず、輸送協力では、それぞれの担当者が努力するものの、かならずしもアメリカの要望に的確に対応はできなかったようです。


 アメリカ政府から輸送協力の要請を受けながら、日本政府は、法律の規定がないことからに直接応じることができなかったのです。このため、官僚が個人的に民間船主に頼み込み、日本から輸送船を仕向けたのです。海上自衛隊や海上保安庁の船は、法律上、動けなかったのです。


 湾岸戦争において日本は130億ドル(約1.5兆円)もの資金協力をアメリカに行いましたが、ここでも、外務省・大蔵省という組織がばらばらに交渉することで、支払い条件が不明確であったりして、アメリカからは感謝どころか、不満の声が出ていたようです。そして、戦後には、130億ドルもの資金を投じながら、クウェートにさえ感謝されない日本という結果が残ったのです。


・のちにクリントン政権で国防長官の要職につくことになるレス・アスピン下院軍事委員長は、・・・日本を名指しで非難した。「日本は特別な批判を受けてしかるべきだ。もてる財力を思えば、不承不承、仕方なく財布を開いたと言えないか。日本に拠出を呑ませるためにわれわれはどれほど大変な思いをしたことか。ようやく金を出すことになったと思ったら、もったいぶってなかなか渡そうとしない。(p377)


 著者が「戦争は同盟の墓場だ」と表現するようにアメリカの同盟国である日本が消極的な姿勢しか見せないことに、アメリカの世論は苛立ち、議会やメディアで日本が批判されたのは事実のようです。


 湾岸戦争においては、日本人はそれぞれ個人が、それぞれのポジションでベストを尽くしたのでしょう。しかし、歴史としてこうした結果が残ったとすれば、官邸、官僚組織が仕組みとして何かがおかしいということの証明なのかもしれません。


この本で私が共感した名言

・在ワシントンのクウェート大使館は・・・全米の有力紙に派手な全面広告を掲載した。・・・<ありがとう、アメリカ。そしてグローバル・ファミリーの国々>・・・なぜかJAPANの文字は見えない(p400)


・その頃、イギリスのヒース元首相や日本の中曽根首相、ドイツのブラント元首相が相次いでバグダッドを訪問し、人質の解放を求める動きに出ていたことに、アメリカは苛立っていた。ホワイトハウスは「報道官声明」の形で、これらの人質救出外交は「イラク側の術中にはまる恐れがある」と警告している。(p42)


・「一度目は騙すほうが悪い。が、二度騙されるのは騙される奴が悪い」・・・フセインの次なる獲物は我がサウジアラビアではないのか・・(p59)


・国連安保理は、多国籍軍によるイラクへの武力行使を事実上認めた「決議678」を圧倒的多数で可決した。・・・反対はキューバとイエメンの二カ国。中国は棄権した。・・・その二日後、ブッシュ政権は、イエメン政府に対して七千万ドルの経済援助の中止を通告した。(p75)


▼引用は、この本からです。
外交敗戦―130億ドルは砂に消えた (新潮文庫)
手嶋 龍一
新潮社
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【私の評価】★★★☆☆(75点)


目次

プロローグ 「極東のクウェート」と呼ばれた日本
第1章 手さぐりのミッション
第2章 策士たちの秋―バンダルとベーカー
第3章 日本への遺書
第4章 中東貢献策漂流す
第5章 会議は踊る
第6章 「Dデー」を探れ
第7章 テヘラン発緊急電
第8章 密室の「湾岸方程式」
第9章 ハシモト蔵相の光と影
第10章 痛恨の二元外交―日本敗れたり



著者経歴

 手嶋 龍一(てしま りゅういち)・・・1949(昭和24)年、北海道生れ。外交ジャーナリスト・作家。冷戦の終焉にNHKワシントン特派員として立会い、FSX・次期支援戦闘機の開発をめぐる日米の暗闘を描いた『たそがれゆく日米同盟』を発表。続いて湾岸戦争に遭遇して迷走するニッポンの素顔を活写した『外交敗戦』を著し、注目を集める。2001(平成13)年の同時多発テロ事件ではワシントン支局長として11日間にわたる昼夜連続の中継放送を担った


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