「国家の罠」佐藤 優、新潮社

国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫 さ 62-1)

(評価:★★★★★)91点


●この世の中には完全なる正義、完全なる悪というものはありません。
 同じ事象も、ある立場からみれば正義、ある立場から見れば悪という
 側面を持っています。


●そうした視点で、一時期、新聞を騒がせた鈴木宗男と田中眞紀子と外務省
 の戦い、それから波及したようなムネオハウスがらみでの鈴木宗男の逮捕
 を考えるためには、逮捕された外務省佐藤優氏が書いた本書は最適の一冊
 でしょう。

 ・「この事件は横領でも背任でもどっちでもいける。こっちが背任にした
  のは、カネに触っていない東郷を捕まえるためだった。あんたと前島だけ
  ならば横領でよかったんだ。・・・これは鈴木宗男を狙った国策捜査
  だからな。だからあんたと東郷を捕まえる必要があった。(p233)


●この本を読んで驚くのは、マスコミで報道される鈴木宗男氏と著者の
 イメージと、本書で描かれる両氏のイメージの格差です。私は、著者の
 佐藤優氏は人生をかけても筋を通す、かなり優秀な人であると感じました。

 ・「一般国民の目線で判断するならば、それは結局、ワイドショーと週刊誌
  の論調で事件ができていくことになるよ」「そういうことなんだと思う。
  それが今の日本の現実なんだよ」「それじゃ外交はできない。ましてや
  日本のために特殊事情を活用することなどできやしない」「そういうこと
  はできない国なんだよ。日本は。あなたはやりすぎたんだ。(p288)


●検察が考えるように、国策捜査で捕まる人たちは皆さんたいへん能力が
 あるので、検察に協力して前面自供し、早期に社会復帰してもらわなけれ
 ばならないというのに説得力があるのが悲しいのですが、それが日本の
 現実なのでしょう。

 ・「下手に偽計業務妨害だけが部分無罪になったりすると、こっち(検察)
  は組織の面子に賭けて上にあげるぜ。時間が数年無駄になる。呑み込ん
  じゃった方が全て速く終わるぜ」正直言って、長期裁判は嫌だ。ここで
  呑み込んでしまいたくなった。しかし、ここは筋を通さなくては一生後悔
  することになると思った。(p332)


●見せしめ裁判というものは、社会の規律を正しくするという意味で大事な
 ものなのでしょう。ただ、それが権力闘争の結果であったり、一時の世論
 に沿ったものであるだけでなく、より一段高い視点からも考えるべきもの
 だと思います。


●それは見せしめ裁判というものが、個人個人に与える影響だけでなく、
 組織に影響し、最終的には社会全体に影響するからです。水が澄めば
 見た目はきれいではありますが、逆に魚が住まなくなってしまう
 ようなことがあれば、それは本末転倒ということでしょう。


●とはいえ、事件の両面を見るという視点だけでなく、日本の政治・
 外交のあり方、そして日本の現実を考える良書と判断し★5つと
 しました。


■この本で私が共感したところは次のとおりです。


 ・モスクワで親しくしていたソ連時代の政治犯のことばを思い出す。
  「強い者の方から与えられる恩恵を受けることは構わない。しかし、自分
  より強い者に対してお願いをしてはダメだ。そんなことをすると内側から
  自分が崩れる。矯正収容所生活とは結局のところ自分との戦いなんだよ」
  (p13)


 ・田中さんは『世の中には、家族、使用人と敵しかいない』と公言している
  んだけど、君や東郷に対する目つきは敵に対する目つきだ(外務省幹部)
  (p52)


 ・「いや、俺たち外務省員のプライドが大切なのだ。田中大臣なんかに負けて
  られない」(野上)「その点について私は意見が違います。プライドは人の
  目を曇らせます。基準は国益です。」(p99)


 ・田中女史の、鈴木宗男氏、東郷氏、私に対する敵愾心から、まず「地政学
  論」が葬り去られた。それにより「ロシアスクール」が幹部から排除され
  た。次に田中女史の失脚により、「アジア主義」が後退した。「チャイナ
  スクール」の影響力も限定的になった。そして、「親米主義」が唯一の
  路線として残った。(p118)


 ・外務省が私の報償費(機密費)に関する領収書を全て任意提出したという
  ことを伝え、その一部を私に提示した。私の情報源の名前も記載されてい
  た。外務省が「門外不出にする」といった書類が検察に渡されたことは、
  私にとって大きなショックだった。(p245)


 ・外国公務員への贈賄に関するこの法律が、法実務的観点から欠陥がある
  ことと、このニュースが表に出て、三井物産の清水社長が引責辞職した
  ので、うち(検察)の上の方には『もうこれでいいじゃないか』という
  感じもあって、ああいう線引きになったんだよ(p344)


 ・「何で丸紅は見逃されているの」「僕たちも丸紅は三井から五千万円も
  もらってけしからんと怒っている。しかし、国策捜査だから鈴木さんと
  関係のある三井物産だけがやられて丸紅はおとがめなしなんだ」(p344)


国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて (新潮文庫 さ 62-1)
佐藤 優
新潮社
売り上げランキング: 4581
おすすめ度の平均: 5.0
5 曝け出された国策捜査の実態と目的
5 曝け出された国策捜査の実態と目的
5 国家について考える
5 国策捜査とは時代のけじめ
4 検察の捜査について好奇心がそそられる

(評価:★★★★★)91点


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